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阿佐田 哲也の名言集

公開日: : 最終更新日:2014/03/18 , あ~お, , , , , , ,


Asada Tetsuya_e

色川 武大(いろかわ たけひろ、1929年3月28日 – 1989年4月10日)

日本の小説家である。東京都出身。本名同じ。
他に、ペンネームとして本名である色川 武大(いろかわ たけひろ)のほか、阿佐田 哲也(あさだ てつや)、井上 志摩夫(いのうえ しまお)などがある

色川武大名では主に純文学を、阿佐田哲也名では『麻雀放浪記』をはじめとするギャンブル小説を多数発表しているほか、井上志摩夫名では時代小説などを発表。
麻雀の分野では「雀聖」と呼ばれ、神格的扱いすら受けるビッグネームである。

※「雀鬼十番勝負」などの作品に見られるように、もともとは「雀鬼」と呼ばれていたが、後にナンバーワン代打ちとして活躍する桜井章一を「雀鬼」と呼ぶことが一般的になったため、区別するために「雀聖」と呼ばれるようになった。まだ桜井章一が麻雀の世界では認められていなかったときに、阿佐田哲也だけが「この人こそが本当の麻雀打ちだ」と認めた(桜井章一本人が語っている)エピソードが残っている。また実際に対戦したこともある桜井は、阿佐田の麻雀の腕前はそれほどたいしたレベルではなく、裏家業ではとても食っていけないレベルだったと述べている。(これは小説のモデルになった人も同レベルだったらしい)

  • 発育期、性格形成期をすぎると、もう人間の成長は停まっているんだな。あとはだんだん生命力が衰えていくんだ。だからね、昨日とおなじような今日がすごせるということは、もうそれだけで、昨日の自分を維持するだけの力を使っているんだな。

  • 「観念的に、人は自殺できるののかなァ」全然別の友人と呑んでいてその話になった。「むずかしいね。そんなことできない」「普通の人ならな」「普通じゃないのか」「天才なんだ。すくなくとも、天才としてしか生きられない人なのさ」「じゃ、生きればいい」「それが、そうはいかないんだ」

  • 「おい、俺をずっと、背負いこんでくれるんじゃなかったのか」弟はやはり黙っていた。「そう、お袋にいったそうだな。俺は当てにしたぜ。お前のほうがずっと強いと思っていた」「兄貴がいるだけでぐらぐらしちまうんだ。兄貴がうらやましい。といって、兄貴の道は行けやしない」

  • だから、人生、おおざっぱにいって、五分五分だといったろう。でもこれは虚無じゃないんだよ。原理なんだ。苦と楽は、表生地と裏生地のようにひっついているんだ。

  • 「お前は俺をよかめえしきるとおもっとるな。人間同士の契約など無いのと同じだ。人間は人間の世話などできんし、他人のために働かれるもんか。俺は自分の好いとるごとやる」と李はいった。

  • うまくいきさえすれば、この渡世はどんな稼ぎだってできる可能性がある。うまくいった時の事を空想する事は自由である。そんな風に思わなければ、好きな女と一緒にいる事ですら、いらただしくなるのである。それは、勝負という方向にだけ全力を投入していた生き方が長すぎたせいかもしれなかった。

  • 「いうことはそれだけだよ。金は貸さない。たんとお苦しみよ。そんな苦しみはまだ序の口でね。やってる以上、まだこれからたくさん地獄の気分を味わうようになる。それでも皆やめないんだ。お前もやめないだろうよ。だから今、俺が銭を貸しても、なんの薬にもならないのだよ」

  • 虫喰仙次は、前期のどの社員ともタイプがちがう。前期のどの社員とも同じように、ある程度の逸脱を大眼に見られていたが、彼の場合には社の特徴の凸凹に沿って、へこみの部分では出っぱり、出っぱりの部分ではへこみ、次第に、よかれあしかれぴったりと張りつこうとしているようだった。

  • もっとも私も汚かったンですよ。顔は洗ったことがない。風呂なンぞ、季の変り目に入るンです。春入って夏入って、秋に入って冬入って、それで終わり。床屋は、閏年にいっぺんぐらい。そうやって、来る日も来る日も、じだらくに、なンの望みももたずに、のたくってる。

  • 「わしは贅沢ちゅう奴が好きたい。贅沢にしか、生きられん。博打ほど贅沢なものは無かと。なァ、どうな?」私は返事をしなかった。少し歩いて又、李がいった。「東京にゃ、博打に身を張ってる奴は居らんとか。あンたはどうな?そんな洋服着とったら、世間並みの挨拶しかでけんようになるとちがうとな」

  • しかし私は,盗んでまで建てたというこの墓を見ても、ほとんど感銘を受けなかった。死んだ魂にまで、仕切りをして居場所を作り、せまい所に閉じ込めてしまうなんて、馬鹿げてる。叩いてもこわれない本建築の住居なんて生きてるうちでたくさんで、死者はもっと自由にさせてあげるべきだ。

  • 大体、上位クラスのばくちの勝負というものは、実力の差といっても、十対零などということはありえないので、十対六、七対五、九対八、というふうに両方傷つき合う。傷をつけあいながら、我慢していって、辛抱し勝った方が勝ちになるのである。またこのクラスは誰も彼もよくそういうことを知っている。

  • 「芯が疲れるだけの麻雀はおことわりさ」「俺はちがう。好いとるけん打つとたい。麻雀でやられるなら、殺されてもよか。あんたも、あそこまで打てる腕があろうもン、やっぱりそうたい。よかことか悪いことかわからんばってん殺されてもよか思うちょるもん、やめられんとたい」

  • 「でも俺は、インチキをやるのは弱い奴だと信じてる。俺に勝ったって、自分が強いだなんで思うなよ」「-阿呆」と私はいった。「強いも弱いもあるもんか、ただ勝ちゃァいいんだ。博打ってのはそういうもんだよ。それがいやなら博打に手を出すなよ」

  • 「レートは東京一、高くすべし」「どうして、それじゃァ、メンバーも限られるでしょう」「いや。他のところと似たレートだと、負けがこんできて辛くなった場合、よそへ行っちまう。レートが高ければ、よその安いところへ行っても意味はない。辛くてもここへくるよ。それに刺激が強いんだ」

  • 「菊ちゃんは男を作らないのか」「なぜ-」「婿をとるわけか」「結婚はしない。このままよ」一番小さな熊手をひとつ買って、「じゃ、熊手に何を祈る」「-商売繁盛」「年寄り臭いな」「そうねえ、祈ることないね」

  • アマチュアがプロに勝てるわけはないのだ。たとえ地力が同じでも、プロが勝つ。何故ならプロには、負けて差し出すものが無いからだ。プロが負けるときは、それこそ健のセリフではないが、死んで見せるだけ。

  • 身体を売るにしても、どこかに所属すれば、生き餌になるだけで、これは論外。手前一人で身を売って、五分、乃至は五分以上に取引をして、橋頭堡を手にしてから、その条件で考えられる有利な方寸にきりかえる。但し、それには鋭い廻転が必要で。

  • 「おヒキだと、この俺をか。お前、酔ったな」「酔っちゃいねえ。博打の世界は、ボスと、奴隷と、客と、この三つしか関係はないんだろう。相棒ってのはおかしいよ」

  • 「他の者は、ずうっと先を歩いてるんだ。自分だけ失敗して、何の実りもなしにうろうろしてる。この先逆転のチャンスもない。そういう答に直面しながら、この先長いこと耐えて健康に長生きしろって、そんなことは強制できないなァ」

  • ところが、あまり世間の表面ではいわれないけれども、ここにもうひとつの考え方があるんだな。だませ。しかしそのために、だまされろ。

  • 「俺は昔から、友達はつくらない」「そりゃわかってる。敵か、おヒキか、それしか無いんだろう。俺のことはどう思ってるんだ」「お前はどうなんだ」「本来は敵さ」「じゃ、そうしとこう」「だが敵にものを頼まんだろう。俺は友達として、ここへ来たよ。-どうだい、俺は友達かい、それともおヒキかい」

  • 「競馬の馬だって、いずれは牧場に行くんでしょう。あンたはもう走りすぎてるわ。いつまでも若くはないでしょう。引退して家庭を作ってもいい頃じゃない」健は立ちあがって、封筒をポケットにねじこんだ。「金は借りるぜ。俺は負けやしない。だが、牧場にはさがらないよ。俺に牧場なんてあるもんか」

  • 「俺ねえ、生きてるのが、いつも恥ずかしくってしようがないよ。マージャン小説で、アウトロウを書いててさ、主人公たちは勝負に命を賭けて、結局滅びて行く。誰かにね、お前、何故生きてる、っていわれてるような気がするんだ。インチキ、ってね」

  • 彼等の視界の中心で、李は両手の黒手袋をはずして見せた。「これじゃけん。-指なんてケチくさいことはいわんたい。お好みでよか、負けたら、腕でも足でも根元からスッパリと持って行きんしゃい」「ブウといって腕一本か。一回勝負やな」

  • 「どの女-?」「麻雀屋に来てた女。切れたのか」「あの婆か。ああうるさくちゃな。もっとも俺も少し迷惑をかけちゃったンだが」俺は笑った。くどくど訊かなくたってわかる。アウトロウの世界で、此奴みたいに親切で、まのぬけてる野郎は、結局、周辺に迷惑をはねちらすものだ。

  • 「俺もそうだよ」と私はいった。「俺は最初に放埒を覚えた。それから、笑うこと、だ。それでもう他に覚えることがないような気がしたよ」

  • 「店かね-」といって陳は高峰たちを見た。「あんな店、べつに欲しかァないね。よし、じゃこうしよう。ハコテンになって手をあげた方が、二度とこのへんを大手を振って歩けないように、片端になって貰おう」「賛成たい、俺は承知したけん-」と李。「面白いな-」ドサ健もいった。

  • はんぱな反省は、多分、君にとってプラスにならないよ。それどころか、反省の結果、することに丸みが出てしまってね、無難にはなるけれども、全体にこれまでより威力がおちてしまうんだ。それでまた反省する。で、もっと無難になってしまう。

  • 野郎はそういう奴だった。戦争だと口ではいいながら、八方に気を使っていい恰好をする。それで結局生きづらい思いをするのだ。

  • ドサ健、浜辰、利之助、チン、それにノリ公、五人は別れの言葉も交さずに、それぞれ勝手に靴を突っかけて、袂をわかった。ドサ健は、生まれてはじめて、たとえようもない淋しい心を湧かせていた。明日から、何に心を燃やして生きていこうか。そう思いながら、たった一人で、街の中に帰っていった。

  • 「とてもわからねえだろうが、いってきかせてやる。素人衆が慰みに牌を握ってるんじゃねえぜ。俺たちゃこれで生きてるんだ。死ぬまでやるのさ。負けるってのは、つまり死ぬときのことなんだ」

  • 世間の人は、暮らしていくことで勲章を貰うが、俺たちは違う。俺たちの値うちは、どのくらいすばらしい博打を打ったかってことできまるんだ。だからお前も、ケチなお客をお守りして細く長く生活費を稼ごうなんてことやめちまえよ。麻雀打ちが長生きしたって誰も喜びはしねえよ。

  • 「その前にな-」と李はいった。「昨夜もいうたが、儂ァおのれの芸をどっかで使うけん、あとでガァガァいうたっちゃァ、勝負ば元に戻さんたい。いい分あればその場で手ェ押さえるこっちゃ」「やれるもンならやりゃええわ。けど我々も盲目じゃあらへんよってなァ」

  • 「だが敵にものを頼まんだろう。俺は友だちとして、ここへ来たよ。-どうだい、俺は友だちかい、それともおヒキかい」ドサ健は、ペッと唾を吐いた。「友だちなんかであるもんか。-奴等も、それからお前もだ、お前たちはカモよ!ようし、俺は一人で行くさ!」

  • 戦争中、動員先の工場で、上州虎からこんなことをきいたことがある。『勝負するときの顔つきを見りゃ、そいつの腕はわかるな。いい博打打ちってのは、勝負のときに、みんな、いい顔になるもんだ-』

  • で、たたかいやしのぎのセオリーをしっかり身につけると同時に、それとほとんど同じくらい大切なこととして、自然に人を愛することもできるようになっておくべきなんだよ。

  • 「俺は俺だよ。勝手に笑ってくれ」「俺は笑ってやしねえ。俺も、結局のところお前と大差ないンだよ。だから、足を洗おうと思う。ズタズタに喰われる前にな。お前もよく考えなよ」「お前は、足を洗うことができるからいい」

  • 「あっしは、あんたのことをこう思ってる。あんたはこの社会じゃ鼻つまみの極道者で、自分勝手で、性悪の犬みてえに苦の種子をまき散らす。だが、本物の博打打ちだ。博打打ちとしちゃァ誰が束になってかかったってひけはとらねえ。そうして、とにかくあっしゃ、本物が好きなのさ」

  • そのうち方々の募集に応じることが面白くなった。ここいらが堅気とちがうところなのだろう。三行広告を見て片端から履歴書を送り、受け入れてくれるところにどこにでも入社してしまう。三社も四社もかけもちで出社していることがある。

  • 「自殺だろうな。そうじゃなくても自殺に近いんだろう」と私は春木にいった。「自分で死ぬように仕向けていったりね。表向きは病死でも、実質はそうじゃない死に方が、案外多いみたいだな」「まァこれで、奴さんもケリがついてよかった。とにかく死にゃァいいんだからな。人生は簡単だよ」

  • その一病に関して、他者から軽くあつかわれても、怒っちゃいけない。甘んじて、その軽蔑を受けること。この点の修業をちゃんとする必要があるよ。いいですか。実人生で、九勝六敗目標というのはここだよ。この六敗は、わるびれずに甘んじて受ける。それどころかむしろ、オープンにしてしまう。

  • 俺は、足を洗おうかな、と思いはじめていた。まだ二十二だったけれど、自分の限界がもう見えてきた感じだった。この世界で本当の一流になるには、もっとハングリーで根本的に荒んでいなければならない。

  • 「君、足を洗ったって、洗わなくたって、同じようなもんだぜ。ともかく、喰って、生きてるだけさ」世の識者はちがうというだろう。相違点の方をあれこれあげるだろう。しかし、私は、麻雀ごろの頃も不幸、足を洗って以後現在までもずっと不幸である。

  • 「ばくちを舐めてるんだね。だから負けるのも当り前だ。見てごらん。あそこでも、今、ひィひィいってるのは、主として、本業のある連中だ。ばくち中心に生きてる連中は、ばくちのためにコンディションをととのえている。片っ方は片手間。この差は大きいよ」

  • 整列する、弁当を食べる、トイレに行く、こういう皆が抵抗なくやってることが駄目なんだよ、恥ずかしくてできない。未だにこいつは治ってないね。

  • それは私が若かったからかもしれない。若かったから、何にも隷属しない形で辛うじて生きられたのだろう。現在はがんじがらめに隷属させられている。そのうえ、隷属しなければ生きられないという常識まで身につけている。

  • ひとつ、どこか、生きるうえで不便な、生きにくいという部分を守り育てていく。わざわざ作る必要はないかもしれないが、たいがいは自分にそういうところはあるからね。普通は、欠点はなるべく押し殺そうとするんだな。そうじゃなくて、欠点も、生かしていくんだ。

  • 芹さんは、そんなことを一言も漏らすような人ではなかったが、胸の中の深いところで、なにかを決意してしまったようなところがあり、私はそれを漠然と感じていて、しかし、男が深く深く決意してしまったようなことを翻意させる手だてがみつからず、ただただ眺めているきりだった。

  • それに勝負ごとなんてものは、ただ自分の利害だけを考えていればいい。あんまり他人を配慮しなくてもすむからね。対応がまずくても、非常識でも要するに勝てばいいんだ。そのうえ、勝ち負けが、誰の眼にもはっきり見える。あ、ここに、俺にもやれそうな芸の世界があったな。なんてね。

  • 男が、外で勝手なふるまいをしたり、異能を発揮したりしていると、まずだいたいは、家族の尊敬を得られない。孤独の人になるのである。だから、昔も今も、遊び人は外ばかりほっつき歩いている。

  • 弱点をカバーするために、どうしても発達させなければならなかったべつの地点、これが普通は、その人の長所として定着するんじゃないかな。

  • これは出目徳のお家芸の大四喜十枚爆弾だ。達にそれを教えたのは誰か。私以外にない。主人役の徳を裏切ったオヒキの私に対する怒りは濃い。それはわかる。バイニンにとって奥の手の秘芸は自分のいのちのようなものなのだ。

  • ばくち打ちは、古典的なルールの麻雀をばくちと思っていない。あれはゲームだ、俺たちがやるものじゃない、誰もがそういう。半チャン一時間もかかって勝負をきめるなんていうまだるっこさでは、分単位で金のやりとりをするばくち打ちたちは、敬遠するのが当然だろう。

  • 「健という人とだってそうよ。あンたは健と五分につきあおうと思った。でもこの世界の人間関係には、ボスと、奴隷と、敵と、この三つしか無いのよ。」

  • 四十という年齢は、再起しようという場合には微妙な年齢で、働き盛りのようでもあり、しかし若くもない。軌道に乗っている場合には盛りの時期だが、一から出直しというにはどうか。あッというまに十年や十五年はすぎて、初老に達してしまう。決意が実らなかった場合に、屈託に満ちた老年が来る。

  • 「あたしは女子供とは勝負しませんよ」「-」「怒っちゃいけない。あたしは老人ですからね。ああしてあんたやママにお守りをしてもらってるんです。だから負ける。そうでなくちゃ誰も遊んでくれないでしょう。若い女を金で買うのと同じですよ。-だが、勝負は別だ。今日は勝負をしてるんです」

  • 健は大きな鼻息を立てて息を吸いこんだ。「おい、誰が誰に物をいってるんだ。その辺の鼻たらし小僧がやるのたァわけが違うぞ。俺ァ上野の健だぜ。どこで麻雀やるったって、千点が一万両、これっぽっち欠けたってやらねえ男だ。そうじゃないか陳さん、お前知ってるだろう」

  • 「極楽ってありますか」「あるでしょう。だが普通はなかなか手に入らない。手を伸ばしてただ取ろうとするからな。取りかえっこをすれば簡単なんです。地獄と極楽をとりかえるんですよ。-ところで、あンた、寝ないなら、ひと勝負しませんか」

  • へんに一生懸命になって、もみ合って負けるよりも、悟りきって、あっさり負けた方が、負けの洗練があるような気になってくるんだ。そういうおぼえのある人が読んでいてくれると嬉しいんだが、負け星というやつは、ほんとに中毒するね。

  • 昔の俺の部屋なんてものはね、汚さやだらしなさを超越していて、すごかったね。本や新聞紙や原稿用紙や、食べた物や、ほかの遊び道具なんかを片づけないから、みんな積み重なっていて、畳の目が見えない。部屋にあがりこんできて、あんまり凸凹してるんで、足をくじいちゃった友人がいてね。

  • 「戦争は終わるからいいよ。あたしだって昨日のことは片づけたいよ。ですがね、夢を見ちゃうんだ。夢はいけません。ずいぶん長く戦場を渡り歩きましたがね。鉄砲の弾丸ひとつ、射ったことだって、いちいち夢をみる。あたしゃ忘れてるんだけど、身体はちっとも忘れてくれないんだから-」

  • 俺みたいな遊び人のいうことは女性はなかなか信用しないけれども、これはちょっときいてください。子供が、たくさんの生き物に気をとめるように、援助してやってください。いろんな生き物が、それぞれさまざまな思いを抱いて生きているということを、ひとりでに感じとるように、配慮してください。

  • これでチン六は、もう私の勢力範囲の男だった。小さな恩を売って大きく利用する。それができなければ勝負の世界を泳いではいかれない。いつか此奴を、うんとこき使ってやらなければならぬ。豚同然にだ。

  • 「心配してくださるのは嬉しいんですが、僕はもう月給取りはやめます。近日に社長に会ってお話しするつもりです」「月給取りをやめるって?それで何になるね」「博打打ちです-」と私は胸を張った。「元来がそうだったんですけど」

  • 「-ただ、健さんみたいに、一人で博打を打って気ままに生きたいのさ。俺みてえな人間は、どこかのやくざの組織にでも入って辛抱すりゃ、その方が出世するかもしんねえが、合唱はしたくねえんだよ。健さんだってそうだろう。合唱しねえんだったら、意地は張り切れねえよ。世間から逃げだすことだよ-」

  • 三十年前、というと、もう夢か幻かのような過去の世界でありまして、一億総ポン中みたいな頃があったとは、とても信じられません。あのヒロポンやゼドリンを、全国どこの薬屋でもおおっぴらに売っていて、私どもの中学生時代は、錠剤ですが、試験勉強に皆が使っていたんですから。

  • 「牌山がひとつ足りねえようだが」「え?俺の山がかい-」安さんが自分の山に両手をかけて、ひとつひとつ数え直した。「ちゃんと十七あるよ。どうしてだい」「ふうん-」とドサ健が鼻で軽くいった。「お前、なかなか達者だな」

  • 「俺ァ親父さんが好きだった-」と私はいった。「だからお前も好きだよ。-どうだい、しばらく俺と一緒に打ってみねえか」奴はしばらくしてこういった。「麻雀はやめだ。もう打たねえ」おうむ返しに私もいった。「俺も同じようなことを二日前にいったよ。会社にはもう行かねえって、いったがな」

  • 私はグレていたが、風態は、乞食、と思っていただけば、わかりやすい。その時期、世間の人々も服装の整っていなかった頃だが、私が電車に乗って、坐ると、まわりに三人分ほど空間ができた。誰も近寄らない。

  • これが博打だ、と思った。こうやって、他のすべてを捨てて、勝負に首まで漬かっていく。これが我々の博打だ。お互いに死ぬまでこうやって打っていくのだ。

  • すると、どっとそういう用事が増えた。皆が、色々な出先で麻雀の席をこしらえて来、私を派遣する。利益は仲介者と私の折半である。おかげで出社時間にほとんど出たこともない不良社員が、結構人気者になった。昼間は私にはなんの仕事もない。

  • けれども、生きていく技術の方を診断する場合、案外に大きいのが、この先をとるか、後手にまわるか、ということなんだね。先手でも、後手でも、やることが極端にちがうわけじゃないんだよ。駒組みは似たようなものなんだ。ところが、勝負は、圧倒的に、先をとっていく方がいい。

  • しかし私はそのままの勢いで、深夜の道をどこまでも走った。上衣の袖が片っぽう無く、口から血が噴き出ていた。もしこれが映画だったらと私はへんなことを考えた。このまま走っていって、やがて姿が見えなくなったところで終るのだが。

  • 私は遊びに来たのじゃない。給料袋を作りに来たのだ。やるからには私なりの方法論を持ちたかった。勝つか負けるか、結果はわからない。だが、セオリイを作れば、それに賭けられる。負けた所であきらめもつく。

  • 屈託というものは不思議なもので、死ぬのが怖いとかいやだとかいうのとも少しちがう。乱暴にいえば、死ぬのはかまわないが、衰えたくはない。他人が元気にしている様子が頭に来る。いうならば嫉妬のようなものなのか。

  • 「いや、駄目だ。俺ァもう野っ原じゃ生きられない」「月給とりは面白えか」「面白えかって?」と私はいった。「俺ァこういってるんだぜ。もう面白え生き方をする力がなくなったんだって」

  • 「奴は死んだ-」と健は答えた。「つまり、負けたんだ。負けた奴は、裸にならなくちゃいけねえさ」

  • 「ありがとよ、親爺-」とドサ健がようやく口を開いた。「だがそうはいかねえんだ。手前にゼニを借りるぐれえなら押しこみでもすらァ。フン、長いなじみだと、馬鹿野郎、俺が酒を呑んで、手前が酒を売ってただけのつきあいじゃねえか。俺ァ、いいかげんなことで、人と慣れ慣れしくする野郎は大嫌えだ」

  • 「お前、あいかわらず勤めが面白いか」「面白かないが、まァ続いてるね」「どうだい、死ぬか生きるかって勝負をしてみないか。負けりゃ殺られるかもしれねえが、だらだら生きてたってしょうがねえだろ。俺ァこれからやりに行くが、来たけりゃ広小路の友楽って雀屋で待ってるぜ」

  • 進駐軍が上陸して半月ほどたった頃、博打打ちたちは早くもGI専用バーの裏口から押し入って二回の小部屋を占領し、そこを臨時の賭場にした。英語もへったくれもない。ブロークンにもほど遠い片言でことがすんだ。

  • 「つまずかないように、三十種類も五十種類もの方向に神経をとがらして、注意万全、石橋を叩き、それなりにバランスをとって、やってるんだがな-」と私は翌朝いった。「それでも穴ぼこに落っこっちゃうんだ。これは荒野の特長だ。エラーだが、エラーはいつか避けられない。どんな強い奴でもそうだ」

  • この魅力というやつが、ひとくちに説明しにくくて困るんだが、いずれあとでみっちり記すことになるだろう。今、強引に一言で言うと、自分が生きていることを、大勢の人が、なんとか、許してくれる、というようなことかなァ。

  • 「なァに、いいんだ」とドサ健は軽くいった。「どうせ地主にことわって借りたわけじゃねえ。あいてたところへただおっ建てただけよ、追いはぎの真似をしてたんだからよ。俺も好きなことばかりしてるんだから、他の奴等だってしてくるだろうよ。-それにギャングバーも少しアキてきたところなんだ」

  • ばくちは、相手との戦いではない。自分の信条にどれだけ機械的になれるか、という戦いなのである。

  • どの道でもそうだけれども、プロはフォームが最重要なんだ。フォームというのはね、今日まで自分が、これを守ってきたからこそメシが食えてきた、そのどうしても守らなければならない核のことだな。

  • それでまた同時に、相手を逃げ場のないところまで追いこまない。だって他ならぬその相手とも、愛し合わなくてはならないのだからね。というより愛したり、許したり、助け合ったり、お互いにしなければ、おのれ一人が勝っただけでは、満足な生き方はできないのだからね。

  • バイニンの世界はもともと隠れキリシタンのように影の多いものであるが、中でも奴は孤独に徹していた。大概のバイニンが持つオヒキを一人も作らなかった。だからその悪名に比して、生きざまがよくわからない。そうして私などが知識のあまりないヤクの世界が背後にあった。

  • 「博打の主のような人が集まって昼も夜も打ちまくっている所が、上野のどこかにあるってきいて、一度そこで打たしてもらうのが夢だったんでさ。嘘じゃねえ、強盗、空巣、かっぱらい、あっしにできることは皆やって金を貯めて、ようやくここまできたんだ。帰れるもんかい」

  • 「とんでもない。俺がどんな眼つきで君を見てたか、ちゃんと知ってるだろう。ただね、君のためだけに生きていくわけにはいかない。俺にだってやりたいこともある。-いや、その、君をどれだけ幸福にできるか、つまり自信がないんだ。俺は世間並みの男のようには生きてこなかったからな」

  • けれども、実戦者として、それだけを考えてアドバイスするならば、いったん、今のクラスの相手から退くんだね。そうして、うんと弱いクラスと小さなレートでやるんだ。自分が楽に勝てるようなクラスと。そこで勝つ味をまた思い出すんだ。

  • 「あたい、あんたを口説いているんじゃないのよ。一緒に暮らしてくれなんていいやしないわ。お互い、ヤミテンよ。あんたはただちょっと、ヤミテンに振り込むだけ。そうすれば風は変るわ」

  • 「なんだか、あたしはひどく弱いと思われてるんだなァ。それでいくらのウマをやるのかな」「いくら?金じゃツマらない。あたしはこれを賭けましょう-」と安さんはポケットからスポーツカーの鍵をとりだして社長の手に渡した。「そのかわり僕が勝ったらお嬢さんをいただきましょう」

  • 「金のケリは金でつけろ。それが一番簡単だ。金でケリがつけられないから負い目が大きくなっていくんだ。殿下、そこがお前にはわかっとらんよ。金を返すのは身を切られるように辛いが、にもかかわらず、それが、負い目をなくす一番やさしい方法なんだ」

  • 上衣の襟をぐいと引かれた。一人の手が内ポケットに来、残りのわずかな金をひっぱりだした。他の手が左右のポケットに入った。それから、左右から腕を引っぱられて立たされた。「じゃァお供するよ、家はどこだい」「家はどこなんだよ」「家も金もあるかい。これっきりの男よ!」

  • (-恨みっこなしだな、弱い奴が負けるんだ) 勝負の世界に入った以上、他人には優しくしない。どんなことをしても勝つべきだ。だから、その逆に、何をされても不服はいわない。困ったからといって、人の情けなど当てにしないこと。それが私たちのたったひとつのルールだ。

  • 「破戒坊主はクソ丸さんだけかと思っていたがな」「馬鹿いえ、わしの博打は一種の修行じゃ。奴等のはただの堕落さ」

  • 「七十歳以上になったら、たいがいのことは許可すべきだね。大麻も吸ってよろしい」酔ってそういう提唱をした友人が居た。「身体にわるいったって、ナンセンスだよ。七十すぎて健康にわるくたっていいです。吸いたきゃ吸えばいい」

  • 普通はね、ここ一番というチャンスを迎えたときに、大体、一生懸命になるものなんだよ。固くなったり、身がまえたりする。むりもないよね。誰だって、チャンスは存分に生かしたいから。ところが、それで同時に、自分のそのときの限界まで見せてしまうんだ。

  • 「昔のお前は本物の博打打ちだった。出目徳のおっさんと打ちあった夜のことを思いだしてみろい。そりゃァ、あんな晩ばかりじゃない。獣みてえに他人の喰い残しを突っついたり、雨風ン中でも一人ですごさなきゃならねえ。だが月給とりにあんなすばらしい晩があるか」

  • これも不思議なことだが、五十歳をすぎて死ぬことがあまり恐ろしくなくなった。ま、納得をするというほどではないが、死ぬときまれば存外にじたばたしないように思うがどうだろうか。死んでもいいから、うまく死にたい。

  • 「ことわっとくが、あっし等四人だよ」と浜辰がいった。「赤ン坊が打ってるわけじゃないから、感じの悪いときがあるかもしれん。証拠があれば遠慮なく御用とくるがいいが、証拠なしのいちゃもんは受けつけないぜ」「わかってます」

  • 「ばくちがやりたいかどうか、そいつはわからねえがね。俺はなんでも、とことんまでやりてえんだ。納得がいくまでなァ。負けてった連中だって皆そうなんだろうよ。この世でひとつくらい、とことんまでやれるものがあっていいんだ。それでなくちゃァ、最初からばくちなんかやるもんか」

  • 「はずかしいことはなかよ」「おっさんはそうでも、わいはちがうんや!いかさまで喰うなんて、下の下やないか」「正も邪もなか-」と李は彼のセリフを又口にした。「正だろうと邪だろうと、結局は同じことたい。儂等、勝負ばしちょるンじゃろうもん」

  • この私の考えは半分幼くて、本当の孤立とは単純に社会に背を向けることではない筈だが、いかに幼くとも当時の私が一人きりで生きていた以上、誰にも笑う権利は無い。私は獅子のように道ばたに寝、獅子のように他人を喰い殺そうとしていた。

  • ”二の二”とは何か。ちょっと説明しよう。”二の二”とはその道の隠語で天和のことである。俗に、天和と九連宝燈ができたらお祓いをして貰わないと災いを呼ぶという、ゴルフのホールインワンのような、あの天和を人工的につくってしまうのである。

  • もはや戦争の跡は残らず整地され、人々は自分たちの家庭や職場を本建築で囲ってしまった。地面は、本来誰のものでもないのに、あの女中や私のように身ひとつで生きてきた連中はもうどこへも入りこめはしない。

  • 勝負はいつも、不利を一番自覚している男が、まず吠え出す。

  • 「だらしなく金を使うんだ。金もないくせに-」「わかった。女の人が面倒みてくれてるんでしょう」「いや、知らない店だよ」「毎晩、知らない店に行くの」「呑むときは、一人がいい」「そうかなァ。にぎやかに呑んだ方が楽しいと思うけど」「呑んでるところなんか、人に見せるもんじゃないよ」

  • 「なァおい、悪いこたァいわねえ-、負けられるときは負けときな。全勝しようなんてのは、子供の夢だ、どうしても負けらんねえときに、勝てばいい。今日のところは、俺が勝負している。お前の位置は楽なんだ。できるときに楽をしなよ、俺ァお前が気に入ったから、本気でいってるんだぜ」

  • バイニンは場を陽気にするために絶えずベラベラしゃべっているが、通し以外のセリフは一言も口にしないといっていい。

  • すると突然、出目徳から簡単なサインが来た。(-天和。一本場にするから次の回に積むこと)

  • 「大将はよくしてくれるよ、給料もちゃんとくれる。だが、それは便利だからで、俺の将来を考えてくれるとか、俺を愛してくれるとか、そういうこととは別問題だ。便利だから、給料をくれる。俺はその場その場の給料のために、忠実になる。ある日そいつに我慢がならなくなるンだ」

  • 危険性のある面白い麻雀で生きようとすれば、その日暮らしになる。金になる麻雀を打とうと思えば、自分の気質を殺して全くの男芸者と化さねばならぬ。これが麻雀打ちというものと、改めてさとったが、考えてみるとこれは麻雀打ちばかりでなくどこの社会にも通ずる摂理のようなものかもしれない。

  • 「角力でも野球で同じでしょう。先取点をまずとる。相手土俵に攻めこんでからなら、無理をしなくても相手によっかかってるだけで勝てる。まずスタートが肝心さ」

  • 「もしどうしても、あそこ以外の土地で暮すのはいやだってんなら、普段からそういう生き方をすりゃいいんだ。世間の奴等のようにさ、グレン隊を作って集団の力を当てこむとか、いろんなことを我慢しながら小さくなって暮すとか-。あンたはそのどっちもできやしねえだろ」

  • 博打打ちは総じて、ケチで、しかも見栄坊だという。しかしここで博打打ちの側から陳弁すれば、タネ銭がもし無くなれば再起しにくくなる専門職としてはイヤがおうでもケチにならざるをえないのだ。そうして、世間の風に逆らって生きる無冠の男であるがゆえに、ことあれば見栄坊にならざるをえない。

  • 「これがインチキだってのかい」「どこの世界にこんなチョボ一にひっかかって銭を払う奴がいるもんか」「インチキだから払えねえってのか。よおし、上野に健っていう勇ましい博打打ちがいるってきいたが、そいつがそう吐かしたんだ、インチキだから払えねえってな」

  • 「負けて金を払うのは旦那衆だ。バイニンはちがう。なぐられたって蹴られたって金だけは払わねえ。それがバイニンの誇りだ」

  • 一番辛いことは、誰にも愛されないということだ、とまず実感し、同時に、一番烈しい生き方は、誰にも馴れずに生きることではあるまいか、と思った。あの頃は本気でそう考えていた。

  • 左手は、親指を除いて、どの指も第一関節から先がなかった。手袋の先には詰め物がしてあったらしい。続いて右の手袋もはがしてみたが、左手と同じで親指以外は皆ツメられていた。「どげんしたとな、はよう指をツメたらよかたい。君に忠、親に孝を裏切って、親指をぶった切ってもらっても何ともなかあ」

  • 「だがもう、あんな張り方はできねえな。何故って、俺はもう十六の小僧っ子じゃないからね。この金で、できるだけ綺麗に遊ばして貰おう」チン六は立ちどまった。馬鹿野郎、と曖昧な発音でいった。「博打に年功なんぞあるかい。初心でやりなよ。見栄なんか張るな」

  • (健さん-、俺たちゃ、ギャングたものな)私は感傷的に、胸の中で呼びかけた。(-ギャングで生きようと、いったん定めたンだから、転向なンかできないよな。俺たちのやり方で、勝っていかなきゃしょうがねえンだ)

  • 「どうも納得がいきません」「何がでしょう」「一生というものが短すぎます。私などはやっと今、プロローグの段階が終って、これから仕事でも遊びでも本格的にと思ったら、もう残された時間がすくなくて、何をするにも時間制限が気になります」

  • 「だが、賭けてたぜ。賭けてるっていうから、俺は博打のつもりで打ってたんだ。もし俺が負けてりゃ、どんな無理をしたって払うところさ。それがルールなんだ。守れない奴はこんな所へ来る権利はないよ」「じゃ払えなかったら、どうしようってんだ」「俺は知らねえ。着てる物全部脱いで素っ裸で帰りな」

  • 「それを耐えることに何の意味があるかって、ガンさんはいいたいんだろう。それで、命なんかそんなに大事なものじゃないって考えに至ったんだ。それを折伏するような宗教も倫理も、もう今はないな」

  • けれども、なんだか、取り組んでいて辛いと感じるときがあるだろう。まわりに、すこうし、リードされてしまっているような。こういうときは、大幅にバックするのもひとつの手だな。

  • 俺たちは幼いね。君は、家というものにも弱かったろう。移動を嫌って、必死で定着したろう。子供を溺愛したろう。定着をのぞみながら、鳥にも獣にもなれないで、自分の独特さにしがみついているだけだったろう。辛い走り方が終ってよかったね。俺がわかったことはそれだけだよ-。

  • 「ぎっちょはしくじったんだ。俺は罠をかけた方だ。そりゃ悪いのは俺だが、善い悪いでものごとをきめるんなら、普通の世間と同じじゃないか。この世界は技をかけた方が勝ちなんだ。勝った方をいたぶるなんて法はないぜ」

  • 「これがとられたら、俺ァ飢え死にだ。面白えね!博打はこれだから面白え。死ぬも生きるもサイの目ひとつ、どうせなら、こんなふうに簡単に死にてえものさ」

  • 「僕は、所属するのは好かないな」「そうね、あンたはそうらしいわ。あンたはきっと、誰とでも五分に対しなければならないと思ってるんでしょう。あンたは小さくても独立国でいたいのね。そうなりたくて、博打なんかに興味を持ったんでしょう。つまり、悪いけど、子供っぽいのよ」

  • 大男というものは、総じて小心だてェことをいいますが、あれと同じで、身体と心が一致しない。卑しい環境に打ち克つためにはもっと卑しくならなければいけないのに、多くはそうなりません。どこか、卑しくないところが生まれちゃうんで。

  • どうせ老いて死ぬのなら、どう生きたって同じだ、ってことにはならない。結局もとっこだとわかっているけれど、がんばってみよう。この思いの深さが、その人のスケールになるんだ。

  • 「強え奴だってまだ居るさ」「居やしねえよ。出目徳のおっさんみてえに命まで賭けてしまう馬鹿はもう居ねえ。この頃の奴等の賭けるのは単なる小遣銭だ。あんなものは博打じゃねえ、閑つぶしさ」

  • 集団という奴は、どうも性に合わない。勝負事は結局、一対一のものだと思う。一人きりで生きるなんてことは、原始的で、不便で、間尺に合わないことにはちがいないが、しかし又一方で、きわめて理想的なものである。その頃の私はこう考えてできるだけ獣のような生きざまをしようとしていた。

  • 浴衣がけに下駄ばきで、裏手の小道から窓を乗り越えて編集室に入っていったりする。横柄にそうしているのではなくて、私などは堂々と出版社の表門から入れるほどの者ではないと思うから、窓を蹴破って押し入るわけだが、まァそれが編集者の友人の机に行くのに一番近かった。

  • 銭の有る奴と無い奴がやったら、必ず無い方が勝つ。銭の有る方にはその分だけ遊ぶ心が混じるからである。ポーカーやサイコロのように最初に金を張り、金の圧力がものをいう博打は別だが、銭あと出しの麻雀などはこの法則がきちんとあてはまる。

  • 「本当は、誰も憎んじゃいない。中原さんや米さんや、森ちゃんや勝ちゃんたちの眼を見てごらん。皆、芹さんを好きなんだよ。ただ、始末がわるいだけなんだ」「始末がわるいのって、困るわね」「しかし、人間は皆、始末がわるい。誰だって始末よくなんか生きられない」

  • そうやってなんでも語りつくす一刻を楽しんでいるように見える。また、それだけでなく、私の誘いを待っているふうにも見える。私は逡巡しながら、いつもそのへんの暗い道で、さよなら、といって別れた。

  • 「よおし-」と奴はいった。「この金でもう一勝負してくる」「よせよ、もうツキがおちてる」「引っこみがつくかい。一時は二百万以上浮いてたンだぞ」「俺はもう堪能したぜ。もう当分博打はやらない」しかし奴は耳もかさず、私の昔の亡霊まで背負った形で、よろよろと表に出て行った。

  • 雲というものは不思議なもので、ちょいと見は空に張りついているように見えるが、何か他のものに眼を移して、それから窓の方に視線を返すと、空の様子ががらり一変していたりする。特に夜明けに近い頃は刻々に様子が変り、それぞれの色や形を競っていて、怪奇な味わいがある。

  • 「負けたらどうする」「負けるわけはない。勝つまでやめないんだからな。勝つか、死ぬか、どっちかだ。忘れたのか、俺たちゃそういう生き方をしてきたぜ」

  • 大部分の人間はね、生きようとしていって、そして生きてしまうために、それが原因で死をむかえるんだ。だから生きたって無駄だ、というふうなことをいってるんじゃないんだがね。

  • 小さいところでは技術は技術そのものでしかないんだが、大きな技術になると、天と地が遠くで結びつくように、結局、どれだけ人を好きになれるかということが問題になってくるんだな。

  • 調子に乗って、十五戦全勝なんて、狙っちゃ駄目だ。破滅をひきよせているようなものさ。九勝六敗どころか、現状では、七勝八敗くらいを目標にしてちょうどいいかもしれないね。まァ、これは、大人にいうことかな。

  • もちろん、誰にも彼にも好意で対するのはむずかしいよ。それじゃおシャカさまだ。ところが、大きな貿易を指向するなら、やっぱり好意の無駄づかいをおそれずに、できるだけおシャカさまに近いような生き方をしなくちゃならないんだ。

  • まず、誠意だ。これが正攻法だ。そうして誠意や優しさや一本気な善意がスケールにつながるんだ。だから人格形成期に、まずスケールを大きくしていくことを考えよう。




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